中途失聴・難聴ってどういう事?





一口に聴覚障害といっても、聴こえ難くなった時期や聴こえの程度、聴こえの状態など、 その障害は人により様々です。

ろう者、難聴者、中途失聴者など、全く聴こえない人もいれば 少しは聴こえる、ある程度は聴こえる、聴こえる音と聴こえない音がある、「音」としては 聴こえるが「言葉」として理解できない等、多種多様で、 「聴覚障害とはこういうものだ」と定義できるものではありません。

又、手話を使ってコミニケーションする人なら「ああ、聴こえないんだな」と誰にでもわかってもらえますが、 中途失聴者のように以前は聴こえていたのに聴こえなくなった人の場合、ほとんどの人は 話せますから、 「喋っているんだから聴こえているはず」と思われてしまいます。

補聴器をつけていたとしても、外見からは「聴こえない」という事は なかなかわかってもらえません。

では、中途失聴・難聴とは、どういう障害なのでしょう。

以下は平成年15度(H16.3) 「要約筆記奉仕員養成講座」での難聴者の座談会の様子です。





「見えない障害」



Q/
中途失聴・難聴というのは、見えない障害だと言われています。少しでも多くの方に理解していただく為に、 皆さんにいろいろお聞きします。よろしくお願いします。

まず、聴力を失った時は、どんな状態でしたか?

A1/
前夜まで普通に聴こえていた。朝、突然何も聞こえなくなっていてパニックになった。これからどうなるの? と不安だった。家族も「聴こえない」という事がわからなくて、自分自身も何日かすると聴こえるようになる だろうと思っていたが、聴こえが戻らず病院へ行った。

A2/
幼稚園の健康診断まで、両親も中耳炎に気づかなかった。小学校5年の手術の後、耳が聴こえないのに 気がついた。

A3/
2年前、1年間で少しずつ音が消えていった。このまま聴こえなくなるとは思えず、休養すれば 元のように聴こえるようになると思っていた。でも音は消えていくばかりで、元には戻らなかった。 落ち込んでしまうわけにはいかず、何とかコミニケーションをとる方法を考えた。

Q/
突然、しかも原因不明で聴こえなくなるという事があるんですね。いつ自分にも起こるかもしれないと思うと、 ショッでした。

A1/
誰にでも起こりえること。少しでも変だったら、すぐ病院に行って。

Q/突然聞こえなくなると、精神的にも大変だったでしょうね。

A1/
学校の先生の言葉が聴き取りにくいのが辛かった。

A2/
聴こえなくなった事を嘆き苦しむよりも、コミニケーションをとることに必死になった。 それは強い人間だからという事ではなくて、私以上に辛い思いをしている母親に、これ以上 悲しい思いをさせたくなかったから。自分の為なら頑張れなかったと思う。そういう気持ちが 同障者との出会いを呼び、難聴者が社会に出やすくする為に頑張らなければ、と考えるようになった。 そういう意味では早くから受容できていたのかもしれないが、それは周りの人の支えがあったから。

A3/
聴こえないことを受容するには、15年位かかった。それでも100%の受容にはなっていない。 残りは・・・自分でも答えが出せない。中途失聴者の悩みかと思う。でも、自分が聴こえないことを人に 話せるようになると、楽になった。今ではまず、「聴こえませんから」と口に出せるようになった。 これが「受け入れられた」ということなのかな・・・。

Q/
私達健聴者は、聴こえないなら聴こえないと言って欲しいと思いがちですが、口に出せるようになるまでの 中途失聴の方の心情をもっと思いやるべきですね。

では、コミニケーションのとり方は、どのようにされていますか?

A1/
人工内耳。近くで、ゆっくり、はっきり話してもらえば、ほぼ聴き取れる。離れたところでは聴き取りが 困難なので、書いていただかないといけない。手話はまだ出来ない。

*人工内耳=内耳の蝸牛に埋め込む。音を電気信号に 変換する物。手術が必要。

A2/
手話をコミニケーションの手段にしている。今は人の声は聴こえないので、要約筆記してもらうと助かる。

A3/
手話と読話教室に通ったが、なかなか覚えられない。要約筆記の世話になって、助かっている。今は補聴器、 手話、口話など、トータルして聴こえを補助している。補聴器があっても、静かなところはいいが、 周りの環境によっては役に立たない。要約筆記してもらうと助かる。

*口話=相手の口元を見て、その動きや形で発言内容を 読み取る。


Q/補聴器や人工内耳は機械ですから、不具合とかもあるのでは?

A1/
私は補聴器では聴き取りが出来なかったので人工内耳の手術を受けた。人工内耳のリハビリは、本人の 努力以上に担当者のやる気に影響される。「この人はここまでの聴こえ」と判断されると、そこで 終わってしまう。私の場合、前の担当者は50デシベルに調整したが、現在の担当者は30デシベルに 調整してくれている途中だ。
*デシベル=音の強さを示す単位。正常値は0。 数値が大きいほど聴こえにくい。

人工内耳の手術を受けた事で、耳に水圧のかかるスキューバーダイビングは出来なくなった。 自分の時間ができたらやりたいと思っていたので、残念!
でも「音」を取り戻す事が出来たので、少々の事は気にならない。


A2/
自分に合う補聴器を調整してもらう為に、何度も大阪へ通った。時間がかかる。補聴器は、 耳に入れた時に威圧感がある。聞きたくない音まで、3倍くらいの大きさで聞こえる。

講演会などでは、磁器誘導ループを使うといいと聞いたが、マイクを通した音しか聴こえないので、 周りの様子がわからない。周りの人が笑っている時に笑えず、一人だけ他の人より遅れて 笑ってしまったりした。

*磁器誘導ループ=アンプから配線された ループアンテナにマイクからの音声信号を流す。
ルーブの中にいる人は、補聴器のスイッチを切り替える事で 周囲の雑音無しにマイクからの音を聴ける。


A3/
中学の時補聴器を使っていたが、肝心な事が聴こえず、他の音しか聴こえなかった。後遺症の偏頭痛で倒れる 事が多く、補聴器を使うのが苦しくなって、3年生になってから使わなくなった。それ以来、使っていない。 今は性能の良いのができているし、人工内耳の手術の相談にも行ったが、小さい時の手術で怖い体験をしている ので・・・。

Q/
補聴器でも人工内耳でも、メガネのように「つければすぐに聴こえる」物ではないという事ですね。

人工内耳も補聴器も、一見しただけではわかりませんから、聴こえるものと思って話しかけられる事も 多いのではありません か?

A1/
今日もここまで歩いて来たが、道路の工事をしていて車が通れない所があった。歩行者は通っていいのだ、 と言ってくれていたようだが、それが聞こえなかった。そうしたら、前の車に乗っていた人が車から降りてきて、 教えてくれた。

話が出来るので、人工内耳をはずすと全く聴こえないという事を理解してもらえない。美容院などで 「書いてください!」と筆記用具を出しても、耳元ですごく大きな声で話されて・・・。でも、聴こえない。 周りの人がびっくりして、注目される。そういう時は何か気まずい気になる。

「聴こえないので書いてください!」とお願いした時には、忙しくても書いて欲しい。 「書いてください」と言う事に恥ずかしいという気持ちはない。外見でわからなくても、 聴こえない人はたくさんいて、「筆談は大切なコミニケーション方法」という事を理解してもらうためにも 遠慮はしない。


Q/
私達、要約筆記者も、少しでも皆さんのお手伝いをしたいと思っています。
最後に、サークルに期待する事、要約筆記者に望むこと、又、この講座を受講されている皆さんに、 何かありましたら一言ずつお願いします。

A1/
OHP金魚に入会して!
要約筆記は大変な仕事。故障したり、ストレスをためたりしないように気をつけて、末永く共に活動して いけたら嬉しい。

A2/全員入会して!男性は今、一人しかいないので、ぜひ!

A3/
現場体験はこれで2度目ですが、どうでしたか?喋るのも、まとめるのもヘタなので大変だったと思う。 でも、難聴者にとっては要約筆記が唯一の情報保障です。これを頼りに見ている難聴者、聴覚障害者が いると頭に入れて頑張って!

Q/ありがとうございました。



要約筆記奉仕員養成講座については、 「サークル悪戦奮闘」を御覧ください。